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其の上の One's eyes


「今日は特に何もなかった」



PCのブログに、そう打ち込んだ男の顔は無表情だ。

開いているブラウザの隣には、掲示板が見られるタブが有る。

そこを閲覧する事が唯一の日課らしい。



今日も早速、覗いてみる。

目につく言葉はネガティブなものばかり。



「死にたい、か・・・」



男の口からフッと笑みが零れた。



「ほら、恰好の餌食が居るぞ。現れろ」



そう言い、背凭れに体を預けお菓子を貪っていると、先程のネガティブな書き込みに返信が来た。



『つらいですよね。私もそう思っていますので、お気持ちは解かります』

と、いった内容だ。

『お返事ありがとうございます・・・』



双方の遣り取りは暫く続き、男は其の様子を観賞している。

そして、あれから一週間が経った。

再び掲示板を覗いてみる。



『何でも話して。無理しないでね。あなたは一人じゃないよ』

『嬉しい・・・大好き。ずっと一緒だよ』

『うん、ずっと離れない。私も大好き』



双方の仲睦まじい作文の交換に目を通しながら、男は優越感に浸っていた。



夕食の時間になり、いつも通り姉と食卓を共にする。



「姉ちゃん。飯食いながら携帯いじるなよ」

「レスが来てるんだから仕方ないじゃん」

「後で返せばいいだろう?」

「放置すると通知が凄い量になるの。これは執着されちゃったかな」



面倒そうに肩を竦める姉に、それ以上の口出しはしなかった。

いつものことだ。

食事を終えて自室に戻り、PCを起動する。

普段とは趣旨の異なる掲示板を開き、書き込みを閲覧すると次のような内容が書かれていた。



『馴れ合い気持ち悪い』

『公の場で見せつけるな』

『慰め合って、いつ進歩するの?』



男は思った。この人達は、傍観者を気取っている。

目立つ場所から数歩はなれて悪態をつくことは防衛機制、一種の安全対策なのだ。



「でも、それは思い込みだよね。全員が自己を表沙汰にするとは限らないから、これらは、あくまでコンテンツの一環に過ぎないのかも知れないよ」



PCのキーボードに手を置いて男は言った。



「負の感情では本当の優しさを引き出せない」


そして、ブログにこう綴った。

救済など、期待半分で求めるものじゃない。そこに面白半分で携わる者も軽率だ。

ブログのタブを閉じ、男は頬杖をついて微かに笑んだ。

「人のこと言えないけれど、まあ、何方も閲覧の対象でしかないのだから。せいぜい僕の刺激になってよ。暇潰しでも構わないから」



只、男はどこか異変に気付いていた。

今日も何もなかった筈なのに、気分が落ち着かない。

まるで誰かにずっと見られているような感覚だ。

人の声がするという訳でもない。

男は静かに振り返ったが、やはり背後に人は居ない。

しかし、現在、自身が浴びている視線の影響により心が不安になっている事実は確かなのだった。

恐ろしくなった男は布団に潜り、僅かに剥いだ掛布団から辺りを見渡した。

すると不思議な事に何者かの視線が其の眼を追いかける様に捕らえてくるのだ。



「うわああああ!」



男は声を張り上げて、浴室に逃げ込んだ。

しっかりと鍵をかける。

それでも奇妙な視線は、常に男を凝視する。



「やめろ!一体、今、僕を見ているのは誰なんだ・・・!」

男の顔は恐怖に歪んでいた。
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再婚オークション



大理石の床に置かれたカウンターを間に挟み、スーツ姿の男女が二人、向かい合っている。

女が相手の黒染めしているであろう長髪に目を遣った。生え際の白が目立っている。
彼に対し、薄い書類をファイルにしまいつつ、次のように問いかけた。


「すると、登録者様が離婚された原因は、いつもの夫婦喧嘩だったのですね?」

「まあ、そんなところです・・・」


答えながら長髪の男は苦笑した。

再度、問いかける。


「それなら、またいつもの様に仲直りすることもできたのではありませんか?」

「それが、今思えば仲直りしていたとはいえなくてね。向こうが一方的に折れてくれただけだったと知り、とてもショックでした。私が40年間も愛しいと思ってきた笑顔の裏で、妻は怒りと不満を募らせていた訳ですよ」


そう言って男は、膝に押し付けていた拳を握りしめると、それをカウンターテーブルの上に振り下ろした。


「でも、人の本心なんて誰にも判らないものですよね!気付けなかった事を悔やんでも仕方ないと思うんです」

女の沈黙に促されるまま、話は続いた。

「だいたい、こうなるまで我慢した妻も悪いと思います。なぜ言いたい事を黙ってしまうのか?口答えをしたら嫌われるとでも思ったのでしょうか?私は、そんなに信用できない夫だったのでしょうか?後々、打ち明けられるほうが傷つきます。妻は私を騙していたんだ。やはり腹黒い女だった訳ですよ」

そう言い放った後、男はカウンターテーブルの上から拳を浮かせた。
女はファイルを伏せ、胸ポケットにかけてあるボールペンを抜き、最後にこう問いかけた。

「仰りたい事は以上ですか?」

「あ、はい」

「解りました。キズあり取扱い説明書なし。状態X・・・っと。はい、それでは此方にお名前とご連絡先をご記入の上、自宅でお待ち頂くかたちとなります」

そう淡々と言い、書類を差し出す。
受け取った男は、その紙面に視線を落とした。

「こんな私でも売れますかねえ・・・」

男がそう呟き、溜息を零す一方で、女は含み笑いした。

「ご安心ください。貴方の様な方は大勢おります」
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